2021年8月期 特集

組織再編でチームの総合力・開発力を高めてきたトーセの今後の取り組みとビジョン

「中期経営ビジョンNEXT2021」の振り返りと今後のビジョンを渡辺康人社長に聞いた。

「中期経営ビジョンNEXT2021」の振り返りをお願いします。
フラットな組織編成と次世代人材育成に注力、次の成長につながる基盤を社員と共に構築できた点は評価したい。

中期経営ビジョンにおいては、中長期的な企業価値と資本効率の向上に向けて、組織戦略、事業戦略に取り組んでまいりました。
組織戦略においては、事業部門を、多階層のピラミッド型組織からフラットな組織にし、いくつもの階層の役職者が現場を管理する体制から、プロジェクト中心に機動する、ゲームソフト開発に相応しい体制に再編しました。それにより、プロジェクトメンバー全員が一丸となって、チームの総合力をより発揮できる組織になったと思います。さらに、次世代を担う開発スタッフと、経営マインドを持った人材の育成も重点的に実行しました。ゲーム業界は日々進化していますので、新しい視点や新しい技術を柔軟に取り入れ、能動的に課題解決ができる人材を育成することが目標です。そのために、ゲーム開発者としての研修とは別に、ビジネスマンとして総合的なスキル・教養を得られるように、自社での研修、外部教育機関のサービスを活用した集合研修やeラーニングを充実させました。組織再編や人事制度の改革などは社員の不安や不満につながりやすいですが、私自身も社員との対話の時間を増やし、できるだけ社員の意見を聞き、施策の導入を進めてきました。各部署においても施策の丁寧な説明や議論をしてくれましたので、社員と共に新しい体制を構築できたと感じています。
事業戦略においては、新型ゲーム機や新しいIoTなどの技術の進歩に対応することも必要ですが、現在も事業として進めている開発・運営等のサービスの高付加価値化も目指してまいりました。今のスマートフォン向けゲームは課金型のものが数多く存在し、ユーザーの継続率や課金額など様々なデータからユーザーの動向を分析し、その結果をゲームの面白さの追加や調整に活かすことが重要となっています。当社グループでも、KPI(重要業績評価指標)の分析を行い、スマートフォン向けゲームの開発・運営を軌道に乗せることができてきました。この実績を踏まえ、2021年8月期にはデータ分析を専門に行うチームを設置しました。今後、データ分析によるコンテンツの運営力をより一層高めるとともに、開発途上のゲームのマーケティングやプロモーションに活用し、ユーザーに喜んでいただけるゲーム開発につなげていきます。

2022年8月期の取り組みについて教えてください。
技術開発力の向上と成長性の高い事業への挑戦、そして人材投資を継続していきます。

基本的には中期経営ビジョンの取り組みの延長線上を強化していくつもりで考えています。その中でも重点施策としては3つあります。
1つ目は大規模・高度化する開発に対応した開発体制の充実・強化です。各スタジオが開発業務の実施で獲得した開発技術やノウハウは、以前までそのスタジオ内に滞りがちで、全社で有益に活用できていませんでした。「NEXT2021」の3年の間に、事業部門に機能ユニット(研究開発推進室、企画開発推進室、運営開発支援室)を設置し、そこで情報を集約・編集し、各スタジオに展開する仕組みをつくりました。今年度は、新技術を中心とした開発技術・ノウハウの展開を加速させ、運営・開発業務の効率化を進めます。
2つ目は成長性の高い事業と様々なIPを活用した事業への取り組みです。ビジネス系のデジタルコンテンツでは、DXの流れの中、従来よりも複雑なものを要望される企業が増えており、トーセにとってはゲームの開発技術を応用できるビジネスチャンスだと捉えています。一方、エンタテインメントでは、ゲームのキャラクターを題材にしたアニメが制作されるなどといった、ゲーム・アニメ・小説・楽曲等様々なコンテンツの重なり合いがトレンドとなっています。様々なIP を活用し、ゲームに限らないエンタテインメント事業に挑戦していきます。
そして3つ目は、人事・教育・採用の改革を継続することです。ゲーム業界にとどまらず現在はクリエイター人材の獲得競争が激化しています。「働きやすい組織環境」、「風通しの良い企業風土づくり」を追求し、これまで構築してきた採用・教育・評価・待遇・キャリア形成の仕組みについても、さらに改善を行っていきます。
以上の重点施策により、優秀な開発者が集まる収益性の高い組織体質を目指します。

新規IPとして手がけたアクションゲーム『SCARLET NEXUS』の開発がもたらしたもの

2021年6月24日(Steam®版は6月25日)にバンダイナムコエンターテインメントより発売された『SCARLET NEXUS(スカーレットネクサス)』。開発を支えた2人のクリエイターにインタビューしました。

ロゴ
ビジュアル

SCARLET NEXUS™ & ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

このゲームの世界観、アピールポイントを教えてください。
2人の主人公の視点によるシナリオと、誰もがイメージできる"超脳力"で敵を倒す爽快感。

K.E. 舞台は、異形の生命体「怪異」が空から降ってきて人間を襲っている数千年後の地球です。主人公はこの「怪異」を倒すために編成された怪伐軍の新人隊員ユイト・スメラギとカサネ・ランドール。それぞれの視点で、怪伐軍の真の目的や仲間達との絆を描いていきます。

Y.T. アピールポイントは、怪伐軍の隊員が使う様々な"超脳力"のチョイス。手を触れずにものを動かす念力や、透視、瞬間移動をはじめ、誰もがイメージできる力("超脳力")を使って敵を倒す爽快感をうまく表現できたと思います。

プロジェクトを進めていくなかで大変だったこと、得たものは?
未知のジャンル、開発環境で新規IPにチャレンジ。積極的な提案と綿密なコミュニケーションで想像以上の成果を得られた。

K.E. まずは新型ゲーム機への対応です。現行の主要ゲーム機向けに開発をスタートした後で新型ゲーム機への対応が決まったので、チーム編成を見直しながら、ハードの特性や解像度、フレームレート※1について理解する必要がありました。そこに多くの時間を費やしたことが、開発が長期化(約4年半)したひとつの要因だと思います。

Y.T. 新型ゲーム機向けのタイトルとして開発がスタートしてからは、コミュニケーションの難しさを感じていました。スタッフの数が100名を超えていたので「スクラム」と呼ばれる少人数のチームをいくつもつくり、役割を明確にしたうえで横の連携を大事にしていたのですが、コロナ禍で対面業務が制限され、微妙なニュアンスを言葉で伝えることが難しくなりました。

K.E. 新規IPということで、クライアントに対してはこちらから積極的に提案と問題提起をしてきました。現場の空気感を共有するのが一番の目的で、コミュニケーションにはかなり時間を要しましたが、そこを疎かにしなかったからこそ、スタッフが開発に集中できたと考えています。

Y.T. 良かったと思うのは、タイトルの企画段階から参加して意見やアイデアをどんどん提案できたことです。アクションRPGというジャンル、Unreal Engine※2による開発等、私にとっては胸踊るようなチャレンジでした。特にグラフィックとキャラクターを動かしたときのイメージはイニシアチブをとって議論を重ねたので、リリースされた時は今までにない達成感を覚えました。

今後の課題、チャレンジしたいことは何ですか?
これまで以上にチームワークの向上をはかり、アクションゲーム市場で実績を積み上げていく。

K.E. 『SCARLET NEXUS』についてはまだまだできることがたくさんあります。ユーザーの意見を取り入れながらダウンロードコンテンツを提供し、多くのユーザーの記憶に残るゲームへと昇華させたいです。

Y.T. 今回の開発によって、トーセの業界内での評価は大きく変わりました。ゲームに求められるものは時代とともに変わっていきますが、アクションゲーム市場でさらに実績を積み上げていきたいです。そのためにはリモート体制でもチームワークの向上をはかる必要があると思っています。

今後の目標は?
人材を確保するためにも誰もが知る代表作をつくること。

K.E. これまで世界的に有名な日本のゲームメーカーと仕事をさせていただき、多くの技術とノウハウを蓄積してきましたので、それを活かして代表作となるゲームをつくることは当社の責務だと思います。販売数の目安としては300万~500万本。ゲーム業界と関連がない一般の人、ゲームにまったく興味がない人にも「知っている」「プレイしてみたい」と言われるような代表作をつくることは、人材の確保の面でも大きな意味を持ってくると思っています。これからもあらゆるジャンルの作品の開発に積極的に取り組んでいきます。

『SCARLET NEXUS』公式サイトはこちら
https://snx.bn-ent.net//

※1 動画の1秒間当たりに表示される静止画像数。フレームレートの数値が大きいほど被写体の動きがなめらかできれいな動画になる。

※2 アメリカのEpic Games社が開発したソフトウェア。「Unity」と並ぶ業界のスタンダードとなっているゲームエンジン。